春風が心地よく、少し開けた窓から夕暮れの優しい光がリビングに差し込む季節になりました。
小学2年生になった娘は、最近少しだけお姉さんぶるようになりました。一年生の時は「パパ、手伝ってー!」と泣きついていたのが嘘のようです。そんな娘の成長を頼もしく思いながら、夕食後、リビングのテーブルで向かい合って宿題を見るのが、僕にとって何よりの至福の時間になっています。
「今日の漢字はね、『絵』と『知』と『春』だよ!」
得意げに漢字ドリルを開く娘。2年生になって、習う漢字も少しずつ画数が増え、複雑になってきました。ただ何度もノートに書いて暗記するだけではつまらないので、我が家では「成り立ち」と「書き順」を一緒に確認しながら、それにまつわるおしゃべりをするようにしています。
「まずは『絵』からだね。書き順は……糸へんを書いてから、右側だね」
僕が指差すと、娘は小さな手でしっかりと鉛筆を握り、空中に指で漢字を書いてみせます。
「『絵』って、糸へんに『会う』って書くでしょ? 昔は、色んな色の糸を寄り合わせて模様を作っていたんだって。だから、たくさんの色が『会う』、つまり集まってできるのが『絵』なんだよ」と説明すると、娘は「へえー!」と目を輝かせました。
普段からお絵描きが大好きな娘。「ねえパパ、絵を描く時の『絵』ってこの漢字なんだね。わたし、今から春の絵を描く!」と言って、宿題の途中にもかかわらず、スケッチブックと色鉛筆を引っ張り出してきました。宿題から脱線してしまうのはご愛嬌です。
娘が真剣な顔で描いてくれたのは、大きな門と、ピンク色の花びらが舞う桜の木、そしてピカピカの赤いランドセルを背負った小さな女の子でした。
「これ、去年の入学式の時のわたしだよ」
その言葉に、僕は思わず目頭が熱くなりました。ついこの間のように感じるけれど、あの頃はまだランドセルが歩いているように見えるくらい小さくて、不安と期待が入り交じった緊張した顔をしていました。今ではすっかり学校生活に馴染み、毎日笑顔で通っています。
「すごく素敵な絵だね。この時の『絵』、パパの宝物にするよ」と頭を撫でると、娘は照れくさそうに笑い、再びドリルに向かいました。
「次は『知』だね」
「矢」へんに「口」。書き順を一緒に確認しながら、言葉の成り立ちを考えます。
「『矢』みたいにスパーン!と早く、自分の口で正解を言えること。それが『知る』ってことなんだって。娘ちゃんのクラスに、色んなことをたくさん『知ってる』お友達はいる?」と聞いてみました。
「うん! クラスの○○くんはね、恐竜のことなら何でも知ってるんだよ! あとね、みさちゃんは折り紙の折り方をいっぱい知ってる!」
「そっか。そういう、いろんな事をよく知っている人のことをね、『物知り(ものしり)』って言うんだよ。その時の『しる』が、この漢字なんだ」
「ものしり……かっこいい! わたしはねぇ、マイクラの『物知り』になる!」と胸を張る娘。思わず吹き出してしまいましたが、「うん、大好きなことをたくさん知るのって、すごく素敵なことだよ」と伝えました。
そして最後の漢字は、「春」です。
「一番上に『太陽』があって、その下から草の芽が力強く『ニョキニョキ』って伸びてきている様子。それが『春』っていう漢字の成り立ちなんだよ。ちょうど今の季節のことだね」
「ニョキニョキ! だから横の線がいっぱいあるんだね!」と、娘は腕を上に伸ばして草が育つジェスチャーをしてくれました。
「そうだね。春と言えば、どんなことを思い出す?」と尋ねると、食いしん坊な娘の口からは、景色よりも先に食べ物の名前が飛び出してきました。
「このあいだ、一緒に苺をぐつぐつ煮て作った苺ジャム! 甘くて美味しかったよね! あとね、ばあばが作ってくれた筍(たけのこ)ご飯!」
「そうだね、どっちも春の美味しい食べ物だね。あ、そういえば昨日の夜、皆でお刺身で食べてたお魚、覚えてる? あれは『初鰹(はつがつお)』って言ってね、春にしか食べられない特別な鰹なんだよ」と話をした。
「絵」「知」「春」。 たった三つの漢字ですが、成り立ちを語り合い、娘の言葉に耳を傾けるだけで、昨年の思い出からクラスの友達のこと、そして季節の美味しい食べ物のことまで、たくさんの世界が広がりました。
宿題を終え、「あー、お腹すいちゃった!」と笑う娘の横顔を見つめながら、ただ文字を暗記させるだけでなく、こうして言葉の背景にある温かい物語や季節感を一緒に味わう時間を、これからも大切にしていきたいと強く思いました。
明日もまた、どんな漢字の世界を一緒に冒険できるのか。親である僕の方が、日々の宿題タイムを心待ちにしているようです。
【かん字の れんしゅう:絵・知・春】
つぎの ( )の ひらがなを、「絵」「知」「春」の どれかの かん字に なおして ノートに かいてみよう。
1.あたたかい (はる)の 日。
2.犬の (え)を かく。
3.ともだちの ことを よく (し)る。
4.大すきな (え)本を よむ。
5.先生に お(し)らせ を わたす。
6.たのしい (はる)休み。
7.がっこうで (え)のぐ を つかう。
8.虫の なまえを たくさん (し)っている。
9.(はる)に なると 赤い 花が さく。
10.なんでも (し)っている、ものしりな パパ・ママ。
■ こたえ 1.春 2.絵 3.知 4.絵 5.知 6.春 7.絵 8.知 9.春 10.知


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