【小1の壁】パパと娘の「初めてのおつかい」奮闘記 〜小さな背中が教えてくれたこと〜

子育て

保育園時代とは違い、小学校は帰宅時間が早く、長期休みもあります。学童保育には通う予定ですが、どうしても仕事の都合がつかず、ほんの少しの時間だけ、娘に1人で留守番をしてもらう機会がいずれやってくるかもしれません。親としては心配でなりませんが、ずっと親の影に隠れているわけにもいきません。

「少しずつ、1人でできることを増やしていこう」

そう夫婦で話し合い、まずは第一歩として、娘にとって人生初のビッグプロジェクト「初めてのおつかい」を実施することにしました。

ミッションは、今夜の夕食であるシチューに欠かせない「牛乳」。そして、ついでに毎日の食卓のお供である「納豆」と「卵」の3品です。

娘に「今日、1人でスーパーに行って、お買い物してみる?」と提案すると、最初は少し驚いたような顔をしましたが、すぐにパァッと表情を輝かせました。「行く! わたし、1人で行けるよ!」と、やる気満々です。

早速準備に取り掛かります。娘は自分の小さなノートを破り、たどたどしいひらがなで「ぎゅうにゅう、なっとう、たまご」と真剣な表情でメモを取りました。それを大切そうに折りたたみ、お気に入りのキャラクターが描かれた小さなリュックのポケットにしまいます。さらに、折りたたみ式のエコバッグをリュックに詰め込み、準備は万端。

私は娘に、魔法のアイテムを渡すように「1000円札」を1枚手渡しました。「これで足りるからね。お釣りも忘れないようにね」と伝えると、娘は「わかってる!」と力強く頷きました。

いざ、出発の時。娘はリュックを背負い、意気揚々と歩き出します。もちろん、本当に1人で行かせるわけにはいきません。私は「極秘の護衛任務」を帯びたエージェントのように、娘の斜め後ろからそっと尾行を開始しました。

しかし、歩き出して5分も経たないうちに、前を歩いていた娘がくるりと振り返りました。そして、眉間に少ししわを寄せて、こう言い放ったのです。

「パパ、近すぎる! もっと後ろから付いてきて!」

どうやら、私の存在が気になって「1人でやっている感」が薄れてしまったようです。私は苦笑いしながら、「了解、エージェント・パパはもう少し距離を取ります」と心の中でつぶやき、十メートルほど間隔を空けることにしました。

「これで文句ないだろう」と思いながら見守っていると、今度は少し歩くたびに娘が立ち止まり、こちらを振り返ります。

「パパ! あそこに可愛い猫がいるよ!」 「パパ! お店って、あの信号を曲がるんだよね?」

「もっと離れて」と一人前なことを言った口の根も乾かないうちに、何かを見つけるたびに嬉しそうに報告してくる娘。そのツンデレ具合がたまらなく愛おしく、私は遠くから大きく頷いたり、手を振ったりして応えました。「完全に1人」はまだ少し怖いけれど、パパが見てくれている安心感の中で冒険を楽しんでいるようです。

やがて、目的のスーパーマーケットに到着しました。何度か家族で一緒に来たことがあるお店ですが、いざ1人で入るとなると、広く感じたのかもしれません。娘は入り口で少しだけ立ち止まり、深呼吸をしてから自動ドアをくぐりました。

私も距離を保ちながら店内へ潜入します。カートを押さずに、小さなカゴを両手で抱えながら歩く娘の姿は、まるで森の中で迷子になった小動物のようです。

いつもは親の後ろをついて回るか、お菓子売り場に一直線に向かうだけなので、どこに何があるのかまったく把握していません。野菜コーナーをうろうろし、お肉コーナーを通り過ぎ、お惣菜の匂いに誘惑されそうになりながらも、娘は必死に牛乳を探していました。

「あっちかな……」と呟きながら、ようやく乳製品コーナーを発見。ショーケースの前に立ち、たくさんの種類の牛乳パックを見上げます。

娘はメモを取り出し、商品の値段をじっと見比べていました。「一番安いのはどれかな……」と、日頃の妻の買い物の様子をしっかり観察していることが窺えます。そして、得意げな顔で一つのパックに手を伸ばしました。

しかし、ここで護衛のエージェント・パパは動かざるを得ませんでした。娘が手に取ったのは、安価で美味しい「乳飲料」だったのです。もちろん乳飲料でも美味しいのですが、今夜のメニューは濃厚なクリームシチュー。できれば成分無調整の「牛乳」を使いたいところです。

私はサッと娘の横に歩み寄り、「よく見つけたね! でもね、お料理に使う時は、ここに『牛乳』って書いてあるやつの方が、シチューがもっと美味しくなるんだよ」と、牛乳と乳飲料の違いを簡単に説明しました。

娘は「ふーん、そうなんだ!」と納得し、しっかりと「種類別:牛乳」と書かれたパックを選び直してカゴに入れました。その後は順調で、慣れた手つきで納豆をカゴに放り込み、割れないようにそーっと卵のパックを一番上に乗せました。これでミッションの品はコンプリートです。

いよいよ最大の難関、お会計の時間がやってきました。そのスーパーはセルフレジも選べます。娘も、機械がたくさん並ぶセルフレジのエリアへと向かいました。

台の上にカゴを置き、バーコードをスキャナーにかざします。「ピッ」という音が鳴るたびに、少し嬉しそうな顔をしています。3つの商品の登録を終え、いよいよお支払いです。

娘はリュックのポケットから、1000円札を取り出しました。機械の紙幣投入口は、1年生の背丈からすると少し高い位置にあります。背伸びをして、お札が真っ直ぐ入るように両手で丁寧に押し込みます。機械がウィーンとお札を吸い込むと、ホッとしたように息を吐き出しました。出てきたお釣りとレシートをしっかりと受け取り、お財布代わりのポケットにしまいます。

次は、袋詰めです。台に移動し、持参したエコバッグを広げます。ここからが娘の腕の見せ所でした。

「まずは、一番大きくて固いものを下にするんだよね……」

娘はブツブツと呟きながら、大好きなゲーム『マインクラフト』でブロックを積むかのように、真剣な表情で商品を配置し始めました。土台としてどっしりとした牛乳パックを一番下に横たえ、その横の隙間に納豆のパックを綺麗にはめ込みます。そして、一番上に割れやすい卵のパックをふんわりと乗せました。マイクラで鍛えた(?)空間認識能力が見事に発揮され、エコバッグの中は完璧なテトリス状態に仕上がりました。

「できた!」

満足げにエコバッグの持ち手を握り、リュックを背負い直して、スーパーを後にします。

しかし、帰り道は行きとは全く違う過酷な道のりでした。1リットルの牛乳、卵10個、納豆3パック。大人にとっては大したことのない重さですが、新1年生の細い腕には、ズシリと重くのしかかります。

歩き始めて数分後、娘の歩みがガクンと遅くなりました。右手で持っていたエコバッグを「よいしょ」と左手に持ち替え、またしばらく歩いては右手に持ち替えます。エコバッグの紐が肩や腕に食い込んでいるのが、後ろから見ていてもわかりました。

「パパが持とうか?」と声を掛けたくなる衝動を必死に堪え、私はただ後ろから見守り続けました。これは彼女の冒険であり、彼女自身の力で乗り越えなければならない試練なのです。

しかし、疲れから注意力が散漫になっていたのでしょう。自宅まであと少しというところにある、信号のない小さな横断歩道に差し掛かった時のことです。娘は前だけを見て、左右や後ろを全く確認せずに、ふらふらと道路を横断し始めようとしました。

「ストップ!!」

私は思わず大声を出して駆け寄り、娘の肩を掴みました。幸い車は来ていませんでしたが、ヒヤッとした瞬間でした。

「お買い物、すごく頑張ってるね。でもね、疲れている時こそ、道路を渡る時は右・左・後ろをしっかり見ないと危ないよ。一人で歩く時は、自分の命は自分で守らなきゃいけないんだからね」

私が真剣なトーンで伝えると、娘はハッとした顔をして、「ごめんなさい。次からちゃんと見る」と小さく頷きました。これも、実際に外を歩いてみなければ学べない、大切な「生きた勉強」です。

気を取り直して、再び歩き始めます。そしてついに我が家の玄関に到着しました。

「ただいまー!!」

ドアを開けた瞬間、娘の口から安堵と達成感に満ちた大きな声が響きました。出迎えた妻に、「わたし、一人で買えたよ! 重かったけど頑張った!」と、誇らしげにエコバッグを手渡しています。

その日の夕食は、娘が買ってきてくれた牛乳を使ったクリームシチューでした。「私が買った牛乳で作ったから、いつもより美味しいでしょ?」とドヤ顔でシチューを頬張る娘を見て、私たち夫婦も「今まで食べた中で一番美味しいよ」と心から笑い合いました。

夜、娘が眠りについた後、私は妻とその日の反省会をしました。

「牛乳1リットルは、初めてのおつかいにしてはちょっと重すぎたね。小1の体力を甘く見ていたよ」 「そうだね。次は、ふりかけとか、パンとか、もっと軽くて落としても大丈夫なものからお願いしようか」

親としての見通しの甘さを反省しつつも、娘の成長を確かに感じられた一日でした。

「小1の壁」は、親にとって不安の種であり、乗り越えるべきハードルです。しかし、視点を変えれば、それは子どもが「守られるだけの存在」から「自分で考えて行動する存在」へとステップアップするための、大切な助走期間なのかもしれません。

文句を言いながらも重い荷物を運びきった小さな背中。左右を確認することの大切さを学んだ真剣な瞳。娘は今日、確実に「壁」を乗り越えるための小さな階段を一段登りました。

これからも、つまずいたり、転んだりすることはあるでしょう。親としては、先回りして障害物を取り除きたくなる気持ちをグッとこらえ、少し離れたところから「護衛」として見守る勇気を持つこと。それが、今の私たちにできる一番の「小1の壁対策」なのかもしれません。

明日はどんな小さな挑戦をしてもらおうか。そんなことを考えながら、私は娘の少し汚れた小さなスニーカーを、そっと玄関の端に揃えました。

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