「パパ、ランドセルが重いー。もう歩けない……」
娘が小学校に入学し、荷物が増えてきた頃のことです。
教科書にノート、筆箱、水筒、タブレット端末。
日によっては、さらに体操服や給食袋まで加わります。
試しに私がランドセルを持ってみると、
「……確かに重いな」
大人でもズシッと感じました。
小柄な娘がこれを背負って歩くとなれば、「重い」と言うのも当然かもしれません。
理学療法士として働いている私は、最初、
「少しでも楽な姿勢で背負わせてあげよう」
と考えました。
ところが実際に娘と試してみると、単純に「姿勢を良くすればいい」という話ではありませんでした。
荷物を減らす。
重い物を入れる場所を変える。
肩ベルトを調整する。
そして何より、
「これ、楽?」
と娘本人に聞く。
親子で試していくうちに、私の考え方も少し変わりました。
今回は、娘の
「ランドセルが重い」
から始まった、我が家の試行錯誤を紹介します。
まず考えたのは「姿勢」ではなく、そもそも荷物を減らせないか
ランドセルが重いとき、入れ方や背負い方を工夫する前に確認したいことがあります。
それは、
「そもそも、この荷物を全部持っていく必要があるのか?」
ということです。
ランドセルの中を娘と一緒に出してみました。
教科書。
ノート。
筆箱。
水筒。
タブレット。
学校から指定されている物は必要ですが、日によっては使わない物が残っていることもあります。
文部科学省も、児童生徒の発達段階や学習上の必要性、通学時の負担などを考慮しながら、学校に置く物と持ち帰る物を検討するよう学校側へ求めています。
つまり、
背負い方を工夫する前に「減らせる荷物はないか」を確認する。
ここが一番最初です。
ランドセルをどれだけ上手に背負っても、中身そのものが重ければ限界があります。
重い物はどこに入れる?ランドセルを「マイクラ」にしてみた
荷物を確認した次は、中身の入れ方です。
私が娘に聞いてみました。
パパ:
「教科書とか重たい物って、ランドセルのどこに入れたらいいと思う?」
娘:
「うーん……適当!」
まあ、小学生ならそうなります(笑)。
そこで、
パパ:
「じゃあランドセルの中を、マイクラのブロックを並べるみたいにしてみよう」
と提案しました。
ポイントは、重い物をなるべく身体に近い側へ置くこと。
教科書やタブレットなど、比較的重い物を背中側へ。
軽い物はその外側へ。
左右にも大きく偏らないように整理します。
アメリカ小児科学会(AAP)も、教科書やパソコンなど重い物は身体に近い位置に入れることを勧めています。
PTパパの運動学メモ
ここには、簡単な物理の考え方があります。
同じ重さでも、荷物が身体から遠くなるほど、その荷物に引っ張られる影響は大きくなります。
理学療法では、このような「力が働く場所と身体との距離」も動作を見るときの一つの材料になります。
ただし、
「背中側に入れれば必ず軽く感じる」
とまでは言えません。
バックパック内の荷物の位置については研究結果にもばらつきがあり、「ここが唯一の正解」と決められるほど単純ではありません。
我が家では、
「重い物を背中側に置き、中身が大きく動かないよう整理する」
くらいのルールにしました。

肩ベルトを短くすればいい?娘の「窮屈」で一度やり直し
次に気になったのが、ランドセルと背中の間のすき間でした。
私は最初、
「ランドセルが身体から離れない方がいいだろう」
と考え、肩ベルトを短くしてみました。
すると娘から、
娘:
「えー、なんか窮屈じゃない?」
と言われました。
ここで一度ストップ。
当時の私は、
「身体に近づける=ベルトをしっかり短くする」
と考えすぎていました。
でも、子ども本人が窮屈なら、それも調整が合っているかを判断する大事な情報です。
もう一度ベルトを少し緩め、
・ランドセルが背中から大きく離れない
・歩いたときに大きくガタガタしない
・肩に食い込みすぎない
・本人が「窮屈」と感じない
このあたりを娘と一緒に確認しました。
つまり、
「短ければ短いほど良い」のではなく、その子に合わせることが大切。
ここは、実際に娘と試したからこそ気づいた点でした。
チェストストラップは「必須」ではなく、安定させる選択肢の一つ
肩ベルトが外側へずれやすかったり、歩いているとランドセルが左右に動いたりする場合には、胸の前で左右のベルトをつなぐ「チェストストラップ」という選択肢もあります。
AAPでも、胸や腰のストラップはバックパックを身体に近づけ、荷重を分散する方法の一つとして紹介されています。
ただし、
「チェストストラップを付ければ肩への負担が必ず大きく減る」
とまでは言えません。
バックパック設計についての研究では、胸ストラップに関する研究自体がまだ多くありません。
そのため我が家では、
「絶対に付けた方がいい物」
ではなく、
「ランドセルが揺れたり、肩ベルトがずれたりするときに試してみる補助アイテム」
くらいに考えています。
付けた場合も、苦しくないか、動きにくくないかを子ども本人に聞くことが大切です。
「耳・肩・股関節を一直線にしよう」……今ならこの声かけはしません
荷物とベルトを調整したあと、当時の私は娘に姿勢も教えました。
パパ:
「ちょっと背筋を伸ばしてみようか」
娘:
「ピシッ!」
以前の私は、
「耳、肩、股関節あたりが一直線になる姿勢」
を一つの目安として考えていました。
しかし、この記事を書き直すにあたって改めて文献を確認すると、ここは私自身も修正する必要がありました。
現在では、すべての人に当てはまる一つの「理想的な一直線の姿勢」があるとは言い切れません。
自然な立ち方には個人差があります。
さらにランドセルを背負えば、後ろの荷物とのバランスを取るために身体が少し前へ傾くこともあります。
それ自体を、
「姿勢が悪い!」
と直す必要はありません。
2024年の研究でも、従来使われてきた「理想的な一直線」の姿勢を、姿勢異常の判定基準として使うことを支持する根拠は乏しいと指摘されています。
だから今なら、娘にはこう言います。
パパ:
「無理にピシッとしなくていいよ。これで立ってみて、楽?歩きやすい?」
姿勢をランドセルに合わせるのではなく、
ランドセルを子どもに合わせる。
今は、こちらの考え方を大切にしています。
娘が言った「あれ?さっきよりきつくない」
荷物を整理して、
肩ベルトを調整して、
娘自身が楽に立てる位置を探しました。
すると娘が、
娘:
「……あれ?なんか、さっきより全然きつくない!背負ってるのに軽い!」
と言いました。
私も、
パパ:
「お、本当?」
とホッとしました。
ただし、これはあくまで我が家で起きたことです。
この方法を使えば、すべての子どもが同じように「軽い」と感じるわけではありません。
身体の大きさも違います。
ランドセルの形も違います。
肩ベルトの形も違います。
通学距離も違います。
だからこそ、
「この位置が正解」ではなく、その子の反応を見ながら調整する。
これが一番大切なのではないかと思っています。

重いランドセルで「姿勢が悪くなる」「腰痛になる」とは言い切れない
ここは、少し専門的な話です。
重いバックパックを背負うと、子どもの立ち方や歩き方が一時的に変化することは研究でも報告されています。
2023年の研究では、バックパックを背負うことで立位姿勢や歩行速度、歩幅などに変化がみられました。
ただし、多くの変化は「重ければ重いほど必ず大きくなる」という単純な関係ではありませんでした。
また、
「重いランドセルを背負うと、将来腰痛になる」
という因果関係も現在の研究でははっきりしていません。
だから私は、
「重いランドセルは身体を壊す」
と不安をあおるより、
「重いと疲れたり、歩き方や姿勢が一時的に変わったりすることはある。だから、まず本人が困っていないかを見る」
くらいに考えるのがよいと思っています。
我が家で確認するようになった4つの順番
ランドセルが重そうな日は、次の順番で見ています。
1.そもそも荷物を減らせないか
使わない物が入っていないか確認します。
学校の決まりの範囲で、置いておける物がないか確認するのも一つです。
2.重い物が身体から離れすぎていないか
教科書やタブレットなどは、できるだけ背中に近い側へ。
中身が大きく動かないよう整理します。
3.肩ベルトが合っているか
ランドセルが背中から大きく離れない程度に調整します。
ただし、締めすぎて「窮屈」になっていないかも確認します。
4.最後は子どもに聞く
「楽?」
「肩、痛くない?」
「歩きやすい?」
親が横から姿勢を見るだけでは分からないことがあります。
子どもの感覚も、大事な情報です。
ランドセルを外しても痛い・しびれる場合は別に考える
ランドセルを背負っているときだけ「重い」「疲れた」という程度なら、まず荷物やフィッティングを見直してみる方法があります。
一方で、
ランドセルを外しても痛みが続く。
手や腕がしびれる。
力が入りにくい。
痛みを繰り返している。
日常生活や学校生活に影響している。
このような場合は、単なるランドセルの問題と決めつけず、小児科や整形外科などに相談してください。
AAPも、バックパックを背負っていないときにも続く子どもの背部痛については、医療者へ相談するよう勧めています。
まとめ|「正しい姿勢」より、ランドセルをその子に合わせよう
娘の、
「ランドセルが重いー。もう歩けない……」
から始まった今回の試行錯誤。
最初の私は、
「姿勢を整えれば楽になるのでは?」
と考えていました。
でも実際に親子で試してみると、大切だったのはそれだけではありませんでした。
まず荷物を減らせないか考える。
重い物を身体の近くへ。
肩ベルトを調整する。
そして、
「これ、楽?」
と子ども本人に聞いてみる。
娘の「窮屈」という一言がなければ、私は肩ベルトを短くすることばかり考えていたかもしれません。
理学療法士として身体を見る知識は使います。
でも、目の前の子どもの感覚を置き去りにしてまで「正しい姿勢」を作る必要はありません。
姿勢をランドセルに合わせるのではなく、ランドセルを子どもに合わせる。
我が家では、今のところこれが一番しっくりきています。
次は、重いランドセルを床から持ち上げるときや、背負った状態で歩くときに、娘がどんな動きをしていたのか。
また親子で観察してみたいと思います。
背負った状態から立ち上がると、今度は別の難しさが出てきました
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