「なんかこぎにくいー。」
ある日、娘と自転車に乗ろうとしたときのことです。
娘の言葉をきっかけにタイヤを確認すると、空気が抜けていました。
パンクしたのかと思い、空気入れを持ってきてタイヤのバルブに取り付けました。
すると、娘が「私がやりたい」と言い出したのです。
せっかく興味を持ってくれたので、娘に任せてみました。
ところが……。
「硬くて押せないー」
自転車の空気入れは、子どもにとって思った以上に力のいる作業だったようです。
そこで、理学療法士として働く私が普段意識している「身体の使い方」を応用して、一緒に挑戦してみることにしました。
今回は、娘と自転車の空気入れに挑戦したときの様子と、手だけでなく身体全体を使って押すために工夫したことを紹介します。
自転車の空気入れを娘に任せてみたら……
「硬くて押せないー」
確かに、手動の空気入れは、大人でも押すときに結構な力が必要です。
特に子どもにとっては、ハンドルの高さやポンプの抵抗が負担になることも考えられます。
ただ「もっと強く押して」と伝えるだけでは、うまくいかなさそうでした。
理学療法士として考えたのは「手だけで押していないか?」
娘が空気入れを押せない様子を見て、私は身体の使い方を工夫できないかと考えました。
手や腕の力だけに頼るのではなく、身体の重さも利用できないだろうか。
例えば、空気入れのハンドルを押すとき、腕だけで力を加えようとすると、肩や肘などの筋肉に負担がかかります。
一方、足元を安定させ、身体をハンドルの上に近づけて重心を移動させると、自分の体重の一部を下向きの力として利用できます。
重心とは、身体の重さがまとまって働くと考えられる位置のことです。
今回は、身体をどの方向に動かせばハンドルを押しやすいかがポイントになると考えました。
リハビリの「呼吸介助」と共通する身体の使い方
理学療法士として働くなかで、呼吸に合わせて胸郭の動きを補助する「呼吸介助」という手技を扱うことがあります。
その際にも、状況に応じて腕だけではなく、姿勢や体重移動を利用することがあります。
もちろん、患者さんの呼吸を介助することと、自転車の空気入れは別の動作です。
今回参考にしたのは、腕の力だけに頼らず、身体の位置や重心移動を利用するという考え方です。
この工夫なら娘にも伝えられるかもしれないと思いました。
手だけではなく、身体全体を使って空気入れに挑戦
私は娘に声をかけました。
「パパがやるのを見てて。手だけじゃなくて体も使うんだよ。」
まず、私が身体を使って空気入れを押すところを見せました。
そして、娘にも実際にやってもらいながら、一緒に体重移動を行いました。
ポイントは、手でハンドルを無理やり押し込むことではありません。
空気入れのハンドルに対して身体の位置を調整し、上から下へ力を加えるイメージです。
手と身体の動きを組み合わせることで、腕だけに頼ったときよりも押しやすくなる可能性があります。
すると、娘からこんな言葉が出ました。
「これなら空気入れれるー。」
先ほどまで硬くて押せなかったハンドルを、何度か押せるようになりました。
今回の娘の場合は、単純にもっと力を出そうとするよりも、力を加える方法を変えたことが役立ったのかもしれません。

でも、5回ほどで「もう疲れた」
身体の使い方を工夫して、空気入れを押せるようになった娘。
ただし、ここで終わりではありませんでした。
何度か空気を入れたところで、
「もう疲れた」
娘がそう言ったのです。
回数にすると、5回ほどでした。
一回押せるようになることと、空気を入れ終わるまで続けられることは違います。
今回、娘は空気入れを数回押せましたが、一人で作業を完了できたわけではありません。
理学療法士の視点で考えると、身体の使い方だけではなく、持久力や身体の大きさ、空気入れそのものの使いやすさも関係する可能性があります。
今の娘には、まだ負担の大きい作業だったのかもしれません。
それでも、最初は押せなかった空気入れを、工夫によって何度か押せたことは、今回の親子の経験として残りました。
子どもと自転車の空気入れをするなら、こんな工夫も
今回の経験を踏まえると、家庭で子どもと空気入れに挑戦する際には、次のような点を意識するとよさそうです。
1. 腕だけでなく身体の位置にも注目する
空気入れのハンドルに対して身体が離れすぎていると、腕だけで押す動きになりやすくなります。
無理なく押せる高さで、身体の位置を整えてみるのも一つの方法です。
2. 大人の動作を見せ、一緒に試してみる
今回は私が先に動作を見せてから、娘と一緒に体重移動を行いました。
言葉だけでは伝わりにくい動作も、実際に見たり、一緒に動いたりすることで理解しやすくなる場合があります。
3. 子どもに合わない道具なら無理をしない
空気入れの高さやハンドルの硬さは、製品によって異なります。
小柄な子どもにとっては、身体の使い方を変えても押しにくい場合があるでしょう。
子どもが数回で疲れるなら、大人が引き継いで構いません。
大切なのは、最後まで一人で行わせることではなく、安全に作業へ関われることだと思います。
自転車の空気入れで気をつけたいこと
今回のようにタイヤの空気が減っていた場合、まず大切なのは、安全に乗れる状態かどうか確認することです。
空気が抜けている=パンクとは限らない
タイヤの空気は、時間がたつと自然に減っていきます。
一方、チューブに穴が開いたり、バルブに不具合があったりすると、空気を入れても漏れ続けることがあります。
今回、娘の自転車はパンクしたように見えましたが、チューブに穴が開いていたのか、単に空気が減っていたのかまでは確認できていません。
空気を入れてもすぐに抜ける場合や、タイヤに傷・異物が見られる場合は、走行を控え、自転車店で点検してもらいましょう。
空気を入れるときは安全を優先
子どもと一緒に空気を入れる場合には、次の点にも注意したいところです。
- 平らで安定した場所で作業する。
- 空気入れの取扱説明書を確認し、大人がそばで見守る。
- ポンプを安定させ、ハンドルは基本的に垂直方向へ動かす。
- 手や指を可動部分に挟まないように注意する。
- タイヤの指定空気圧とバルブの種類を確認する。
- 硬くて押せない場合は無理をしない。
タイヤには適切な空気圧があり、少なすぎても多すぎても問題が生じる場合があります。
子どもが空気入れを押せたとしても、最後の空気圧確認や自転車の安全点検は大人が行うことが大切です。
まとめ|自転車の空気入れも、身体の使い方を学ぶ機会に
今回、娘と自転車の空気入れに挑戦してみると、最初は硬くてハンドルを押すことができませんでした。
そこで私が考えたのは、力をもっと出すことではなく、身体の使い方を変えることです。
手や腕だけではなく、身体全体の動きと体重移動を組み合わせてみると、娘は何度か空気入れを押せるようになりました。
ただし、5回ほどで疲れてしまい、一人で最後まで空気を入れるのはまだ難しい様子でした。
できなかったことが少しできるようになる。でも、まだ難しい部分も残っている。
そんな親子の小さな経験でした。
理学療法士としての知識は、子どもに正しい動作を押しつけるためではなく、うまくいかない理由を考え、次の工夫につなげるために使いたいと思っています。
これからも、娘の「やってみたい」を大切にしながら、親子で少しずつ経験を増やしていきたいです。


コメント