「この辺が痛いー」
立位体前屈をしていた娘が、太ももの裏をさすりながら言いました。
前屈をしても、指先がなかなか床に届きません。
実際に測ってみると、指先と床の距離は15cm。
理学療法士として気になったのは、太ももの裏にある「ハムストリングス」という筋肉の柔軟性です。
そこで、今回はジャックナイフストレッチを親子で試してみることにしました。
ところが、始めた翌日。
娘の感想は、
「んー。昨日と変わらない」
確かに、柔軟性は簡単には変わりません。
それでも1か月続けてみたところ、娘の前屈に変化が見られました。
今回は、実際に取り組んだストレッチの方法、娘の反応、1か月後の結果を、理学療法士の視点から紹介します。
立位体前屈で娘が痛がったのは太ももの裏
立位体前屈は、立った状態で膝を伸ばし、上半身を前に倒す動作です。
娘がこの動きをすると、太ももの裏に突っ張るような感覚があったようです。
「この辺が痛いー」
そう言いながら、太ももの裏をさすっていました。
この部分には、ハムストリングスという筋肉があります。
ハムストリングスは、太ももの裏にある筋肉の集まりで、膝を曲げたり、股関節を伸ばしたりする働きがあります。
走る、ジャンプする、階段を上るなど、日常生活やスポーツでも活躍する筋肉です。
ただし、前屈で床に手が届かない原因が、必ずしもハムストリングスだけとは限りません。
骨盤の動き、股関節の柔軟性、腰や背中の動きなど、複数の要素が関係します。
今回の娘の場合、太ももの裏に突っ張りを感じていたことから、ハムストリングスの柔軟性が一つの要因ではないかと考えました。
ハムストリングスが硬いとケガをしやすい?
理学療法士として、柔軟性を確認したかった理由の一つが、今後の運動やスポーツとの関係です。
ハムストリングスの柔軟性は、股関節や膝関節の動きに関係します。
スポーツ医学では、柔軟性と筋肉のケガ、腰痛、オスグッド病などの関係が研究されています。
オスグッド病は、成長期の子どもに見られる膝の痛みの原因の一つです。
ただし、ここは注意が必要です。
ハムストリングスが硬いからといって、必ず肉離れや腰痛、オスグッド病になるわけではありません。
特にオスグッド病は、成長の状態、運動による負荷、太ももの前側の筋肉など、さまざまな要因が関係すると考えられています。
また、柔軟性を高めれば、これらのケガを確実に予防できるというわけでもありません。
柔軟性は身体の状態を知る一つの手がかりです。
親子で試したジャックナイフストレッチとは?
今回取り入れたのが、ジャックナイフストレッチです。
しゃがんだ姿勢から、上半身を太ももに近づけたまま、ゆっくり膝を伸ばしていく運動です。
太ももの裏を伸ばすことを目的としています。
ジャックナイフストレッチのやり方
- 足を床につけて、膝を曲げてしゃがむ。
- 足首付近を両手で持つ。
- 胸と太ももを近づけたまま、ゆっくり膝を伸ばす。
- 太ももの裏に心地よい伸びを感じる位置で止める。
- ゆっくり元の姿勢に戻す。
膝を完全に伸ばすことや、顔を膝につけることが目的ではありません。
大切なのは、無理をせず、伸ばされている感覚を確認することです。
腰や膝に痛みがある場合は、無理に行わないようにします。

今回行った回数と時間
娘と試した内容は、次のとおりです。
- 1回10秒
- 5回繰り返す
- 朝と晩の1日2回
- 期間は1か月
この回数と時間は、ジャックナイフストレッチの効果を検討した研究報告を参考にしています。
ただし、研究と同じ条件だからといって、すべての子どもにこの回数が必要というわけではありません。
研究で用いられた回数と、子どもが安全に行える回数は分けて考える必要があります。
一番気をつけたのは「痛みが出る手前で止めること」
ストレッチで気をつけたのは、娘に無理をさせないことです。
最初は痛がる様子もありました。
筋肉を伸ばすときには、ある程度の張りを感じることがあります。
しかし、強い痛みが出るまで伸ばせば効果が高くなるわけではありません。
痛みを感じると、身体を守るために力が入ってしまうことも考えられます。
そこで今回は、痛みが出る少し前で止めることを意識しました。
ジャックナイフストレッチをしているとき、娘からこんな言葉がありました。
「痛くなるちょっと前だね」
最初は痛がっていた娘も、徐々に自分にとって無理のない伸ばし加減が分かってきたようでした。
理学療法士として興味深かったのは、この変化です。
単に筋肉を伸ばすだけではなく、娘自身が「どこまで動かすと突っ張るのか」「どの程度なら無理なくできるのか」を感じ取りながら、動きを調整していた可能性があります。
ストレッチの不快感に対する慣れや、身体の感覚への注意も関係していたのかもしれません。
ストレッチ直後は少し楽。でも翌日は変わらない?
ストレッチを行った後、娘はこう話していました。
「ちょっと痛さが減った気がする」
少し変化を感じたようです。
ところが翌日、再びストレッチをしたときには、
「んー。昨日と変わらない」
という反応でした。
ストレッチを1回行うと、その直後は動かしやすく感じることがあります。
しかし、その変化が翌日まで続くとは限りません。
また、短期間で可動域が広がっても、それがすぐに筋肉そのものの構造的な変化を意味するわけではありません。
伸ばされる感覚への慣れなども関係すると考えられています。
今回は、翌日に目立った変化を感じられなかったものの、その後も1か月取り組みを続けました。
1か月後、指床間距離は15cmから5cmに改善!
1か月後、娘にもう一度立位体前屈をしてもらいました。
すると、
「おー。頑張れば床に手が付きそう。でもまだ地面に届かない…」
以前よりも、床に手が近づいていました。
実際に測った結果は次のとおりです。
| 測定時期 | 指先と床の距離 |
|---|---|
| ストレッチ開始前 | 15cm |
| 1か月後 | 5cm |
| 変化量 | 10cm改善 |
※指床間距離は、指先が床より上にある場合をプラスの値として記載しています。
1か月間で、指先が床に10cm近づきました。
ただし、まだ床に手が届いたわけではありません。
また、これは娘一人の実践結果なので、同じ方法で誰でも10cm改善するとは言えません。
それでも、数値と娘の反応の両方から、立位体前屈の動きが改善したことを確認できました。
研究でもジャックナイフストレッチによる柔軟性改善が報告されている
今回の取り組みでは、関連する研究も参考にしました。
石原望先生らの研究(2015年)
参考になるのが、2015年の日本理学療法学術大会で報告された研究です。
この研究では、健康な成人22人を対象に、ジャックナイフストレッチと通常の前屈ストレッチを比較しています。
ジャックナイフストレッチ群が行ったのは、
10秒×5回、朝晩の1日2回、4週間。
今回の娘と同じ回数・期間の設定です。
研究では、ジャックナイフストレッチ群の指床間距離が平均30.2cmから21.1cmに改善しました。
ハムストリングスの柔軟性に関係する膝の伸び具合にも改善が見られました。
ただし、これは成人を対象とした学会発表の抄録であり、小学生に同じ効果があると直接証明したものではありません。
その点は区別しておく必要があります。
前屈が改善したのはハムストリングスだけのおかげ?
今回、娘の指床間距離は改善しました。
では、ハムストリングスが10cm分柔らかくなったのでしょうか?
実は、そう単純には言えません。
立位体前屈では、主に次のような部分が関係します。
- ハムストリングスの伸びやすさ
- 股関節と骨盤の動き
- 腰や背中の動き
- 膝の伸ばし方
- ストレッチに対する身体の感覚
つまり、指先と床の距離は、身体全体の前屈動作を反映した数値です。
今回の娘も、ハムストリングスの伸びやすさが改善した可能性はあります。
一方で、骨盤の前傾や腰部の動き、伸ばされる感覚への慣れなどが影響していた可能性もあります。
実際にハムストリングスの柔軟性だけを評価するには、別の検査も必要です。
今回はそこまで測定していないため、確認できた結果は「立位体前屈の改善」です。
理学療法士としては、今後、腰部や骨盤の動きにも目を向けていきたいと考えています。
家庭で子どもとストレッチを行うときの注意点
ジャックナイフストレッチを家庭で試す場合は、次の点に気をつけたいところです。
1.痛みが出るまで伸ばさない
軽く伸ばされる感覚にとどめ、強い痛みや鋭い痛みがある場合は中止します。
2.膝を無理に伸ばしきらない
身体の硬さには個人差があります。膝を完全に伸ばすことを目標にせず、動かせる範囲で行います。
3.反動を使わない
急に膝を伸ばしたり、身体を弾ませたりしないようにします。
4.親が身体を押して伸ばさない
子ども自身が調整できる範囲で行います。大人が上から押したり、痛い姿勢を強制したりすることは避けます。
5.数値だけで評価しない
床に手が届くかどうかだけでなく、子どもが無理なく動けているかも確認します。
痛みが続く場合、腰や膝に症状がある場合、しびれが出る場合には、ストレッチを中止して医療機関に相談してください。
また、ストレッチはすべての子どもが必ず行うべきものではありません。
まとめ|床には届かなくても、1か月で変化があった
今回、娘とジャックナイフストレッチを1か月続けました。
最初は立位体前屈で太ももの裏に痛みを感じ、指床間距離は15cm。
ストレッチ直後は少し楽になったようでしたが、翌日には「変わらない」という反応でした。
それでも続けた結果、1か月後には指床間距離が5cmになりました。
15cmから5cm。10cmの改善です。
まだ床には手が届きません。
また、ハムストリングスそのものがどれほど柔らかくなったかも、今回の測定だけでは分かりません。
ただ、私が今回大切だと感じたのは、数値の変化だけではありません。
最初は痛がっていた娘が、少しずつ自分に合ったストレッチの加減をつかんでいったこと。
そして、自分の身体の変化を言葉にしてくれたことです。
理学療法士としては、これからも前屈に関わる腰部や骨盤の動きに注目していきたいと思います。
親子で身体の変化を観察し、無理のない方法を探していく。
今回のストレッチも、そんな経験の一つになりました。
参考文献
- 石原望ほか(2015)「4週間のジャックナイフストレッチが柔軟性に及ぼす効果」第50回日本理学療法学術大会抄録集.
※本記事はわが家の実践記録であり、個々の子どもに対する医学的診断や治療方法を示すものではありません。


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